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旭川地方裁判所 昭和46年(行ウ)1号 判決

原告

本多政二

外一四〇名

右訴訟代理人弁護士

菅沼文雄

外一名

被告

美瑛営林署長

武田憲昭

外三名

右被告ら指定代理人

末永進

外一八名

主文

一、被告美瑛営林署長が、昭和四六年八月七日付で別紙原告目録(以下目録という。)原告番号一ないし五〇番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄に記載のあるもの)は、いずれも取消す。

二、被告旭川営林局長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号五一ないし六三番、同八三ないし九九番、および同一二九ないし一四一番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

三、被告名寄営林署長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号六四ないし八二番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

四、被告羽幌営林署長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号一〇〇ないし一二八番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

五、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

〈前略〉

第二 当事者の主張

一、原告らの主張

1  (原告らの地位)

目録原告番号一ないし五〇番記載の原告らはその任免権者である被告美瑛営林署長に、目録原告番号五一ないし六三番、同八三ないし九九番、および同一二九ないし一四一番記載の原告らはその任免権者である旭川営林局長に、目録原告番号六四ないし八二番記載の原告らはその任免権者である被告名寄営林署長に目録原告番号一〇〇ないし一二八番記載の原告らはその任免権者である羽幌営林署長によってそれぞれ任用され、旭川営林局管内において国有林野事業に従事している者で、原告らは、いずれも全林野労働組合(以下、全林野という。)に加入している。

なお、目録原告番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇七番および一一九番の原告らはいずれも定期作業員で一〇七番および一一九番の原告らは昭和四六年一二月二八日に、その余の原告らは同年一一月三〇日に退職し、その後右各原告らはいずれも昭和四七年ないし同四九年については四月採用、一一月退職(但し原告番号一〇七番および一一九番の原告らは一二月二八日退職)、昭和五〇年については四月一日採用(但し原告番号八番は五月八日採用)である。

2  (懲戒処分の存在)

被告らは、いずれも前記任免権に基づき、昭和四六年八月七日、原告らに対し、別紙処分等一覧表処分欄(以下処分欄という)記載のとおり各懲戒処分をした。〈中略〉

三、被告らの主張

1  (争議行為)

(一) 本件争議行為に至る経過

被告らの上級官庁である林野庁は、全林野から要求のあつた作業員の雇用安定、処遇改善について、次のとおり制度の許す限りその改善に努力して来た。

(1) 作業員の雇用制度

国有林野事業に従事する職員のうち、作業員というのは、「行政機関の職員の定員に関する法律(以下定員法という。)及びこれに基づいて制定された行政機関定員令」に定められた職員(いわゆる定員内職員)以外の職員(いわゆる定員外職員)を指すが、その作業員は、常勤、非常勤の職員にわかれ、その大多数は非常勤職員である。そして非常勤職員はさらに林野庁と全林野との間に締結された定員外職員の雇用区分、雇用基準、および雇用期間に関する覚え書、国有林野事業作業員就業規則によつて、常用作業員、定期作業員、臨時作業員に区分されている。作業員は本来、事務補助的、または肉体労働的単純労務に従事するのが通例で、定員内職員に課される諸規制の一部(例えば、営利企業への就職、兼務の許可や職務宣誓)は適用されてない。なお、昭和四六年四月現在の常用、定期作業員の数は約三万七〇〇〇名である。

(2) 作業員の処遇

まず、雇用期間については、常用作業員は有期雇用ではあるが必ず更新され、実質的には期間の定めのない雇用として安定した雇用形態となつており、定期作業員も毎年一定期間の雇用ではあるが、全林野との間の優先雇用に関する事案の処理についての確認によつて雇用期間満了により一たん退職した後翌年度も優先的に反覆雇用され、事業実施期間の拡大等により通年雇用の実現、雇用期間の延長等が図られることもあつて安定した地位にある。

次に賃金については、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下給特法という。)の適用を受け、林野庁と全林野との間で締結された国有林野事業に従事する作業員の賃金に関する労働協約その他の協約で定められているのであるが、基本賃金については日給制がとられ(賃金の支払形態は大要定額日給制と出来高給制の二本建てとなつている。)それに諸手当(例えば、扶養、期末、寒冷地、住居、山泊)が支給される。また出張、退職手当についても一般国家公務員と同じ法律の適用を受け、(なお定期作業員のうち退職時に国家公務員等退職手当法による給付金の受給資格をみたしていない者に対しては失業保険法が適用され、失業保険金が支払われる。)さらに、休日などについては、本件争議行為当時で、作業員就業規則、及び昭和四四年四月林野庁と全林野との間に締結した国有林野事業の作業員の週休日、および作業休日に関する覚え書により原則として毎日曜日を週休日としている他毎月二日の作業休日を設け、有給休暇についても、常用作業員には労働基準法に定める日数以上の、定期作業員には同法に規定はないのに一一日の各休暇が与えられ、格付賃金相当額が支給されている。また、作業員に対しては、右の有給休暇の他に、作業員就業規則に基づき各種の特別休暇(同規則二三条)、欠勤の承認(同規則二四条)の制度があり、前者については賃金または休業手当が、後者については事由により休業手当または不就労手当が支給されている。

(3) 雇用安定、処遇改善のための「二確認」について

林野庁と全林野とは、昭和四一年三月、雇用安定に関する問題などについて団体交渉が行われたが同年同月二五日の交渉において全林野が「当局は、国有林の経営に当つて直営直用をいかに拡大するか、雇用安定をどのように考えるか。」と質問したのに対し、林野庁は、「当局の方針を説明すれば本日の国会で農林大臣が『国有林の経営については中央森林審議会の答申もあり目下鋭意検討中であるが、国有林の経営の基本姿勢として直営直用を原則としてこれを積極的に拡大し雇用の安定を図ることを前提として検討して参りたい。なお通年化については努力して参りたい。』と述べた趣旨に沿つて検討を進めていく考えである。」と表明し、その方針について全林野との間で文書をとりかわし(いわゆる三、二五確認といわれるものである。)、また、同年六月三〇日に林野庁は全林野に対し、「雇用の安定については、林業基本法一九条ならびに三月二五日表明した方針の趣旨に基づき、従来の取り扱いを是正して基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改めるという方向で雇用の安定をはかる考えである。この基本姿勢に立つて、さしあたりの措置としては生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大あるいは各種事業の組合せによる雇用期間の延長などによつて雇用の安定をはかる考えである。……なお、これらの具体化にあたつては労働組合と十分に協議話し合いを行い意思の疎通をはかりながら、円滑に進めていく考えである。」との考え方を示し、全林野との間で文書を取りかわした(いわゆる六、三〇確認といわれるものである。)。そして以上二つの確認が二確認といわれるものである。

もつとも、二確認の実現には定員法に基づく定員の問題を始め、適用になる関係諸法令や閣議決定との調整、あるいは国家公務員制度上の問題点に関する関係省庁との折衝、さらには、国有林野事業の企業的経営のための事業の合理的能率的な運営や、事業の継続性の確保、国有林野を取り巻く対境関係(下請業者や、立木を買つて製材をしている者、農閑期に国有林野事業に就労している農民等との関係をいう。)の調整、および事業の自然的、技術的制約による通年事業の困難さなどあつて、相当な困難のあることを銘記する必要がある。

(4) 二確認の具体化のための労使交渉について

全林野は、昭和四二年一〇月、差別を撤廃し臨時的雇用制度を抜本的に改善すること等を要求して来、林野庁は、同年一一月、抜本的改正については相当の期間を要する旨回答し、雇用制度問題検討会を設置して鋭意検討したうえ、昭和四三年一一月九日、事務段階の素案を全林野に提示してその後の団体交渉などを経、同年一二月二七日には基幹要員の臨時的雇用制度の抜本的改正の方向として、定員内組入れ防止の閣議決定(昭和三六年二月二八日決定など)もあることから常勤職員に準ずる方法で基幹要員の通年雇用、常勤化を図る、処遇内容も常勤にふさわしいものにすることを内容とする基本姿勢を明らかにした。そして、林野庁は、右基本姿勢に立つて昭和四五年実施を図つたが、人事院、行政管理庁など関係省庁と折衝を進めたがその調整ができず、常勤性付与の法制上の措置は林野庁独自の判断では実施できないので、個々の解決し得る問題は別として同年度実施を見送らざるを得なくなり、その旨全林野にも説明した。次いで林野庁は、昭和四六年実施を図るべく関係省庁との調整ができることを前提として、昭和四五年七月には全林野に対し、雇用区分改正案(いわゆる七月提案、以下七月提案という。)として、従来の作業員の雇用区分を改め、基幹作業員、臨時作業員に区分し、基幹作業員は資格要件を定め、現行の常用、定期作業員から選考する、基幹作業員については国家公務員法上の常勤職員として取扱うことを提示した。しかし、全林野は、昭和四五年一二月九、一〇日の団体交渉で、二確認中の基幹要員とは現行の定期、常用の全作業員を指すものでこれを選考し、また年令その他の制限を付することは新たな差別であると主張した。林野庁は、右七月提案を昭和四六年度実施を目途に昭和四六年二月までに関係省庁との調整を終えて全林野と本格的な交渉に入るべく関係省庁との調整に努力したが、他省庁にこれと同じ事例があるなど林野庁のみの問題ではなく、事態は極めて困難な情況になつた。一方同年三月二三日の衆議院内閣委員会および農林水産委員会で、同月二五日の衆議院農林水産委員会でこの問題がそれぞれ取上げられて議論され、さらに同年四月一三日同委員会において林野庁長官は政府の統一見解として国有林野事業の基幹的な作業員にはその雇用及び勤務の態様からすれば常勤の職員に類似している面があるが、制度的に常勤の職員に類似している面があるが、制度的に常勤の職員とすることについては国家公務員の体系にかかわる困難な問題であるので慎重に検討する旨答弁し、この問題は極めて複雑かつ高度の政治問題となつた。そこで林野庁は同年四月一四日、全林野に対し、政府の統一見解に沿い、また林業振興についての決議の趣旨を尊重して処遇について慎重に検討する旨の態度を明らかにしたところ、全林野は、同月一六日、同月二三日にストライキを行うことを背景に林野庁に対し作業員を常勤職員として制度化することについての政府としての結論を早く出させるよう努力することや、これと関連した処遇改善策を要求して来た。林野庁はこれに対し慎重に検討した結果同月二〇日、基幹作業員の取扱いについては、常勤職員としての制度化は困難な問題であるが、林野庁としても政府としての結論を早く得るように努力するし、他の要求についても更に検討する旨の回答したのに全林野はそれを不満とし、林野庁の政府の統一見解に沿つて処遇改善に努力するが、今後とも政府部内の折衝や予算など問題が多く、責任ある発言をしたいのでしばらく猶予して欲しいとの再回答をも不満として、四月二三日にストライキを行うことを通告し、当日全国七二営林署において約五、三〇〇名の職員が始業時から約四時間にわたつて一斉に職務放棄を敢行した。

なお、林野庁は、抜本的処遇改善こそ前記の事情で果していないが、個々の改善については、二確認のころから次のような努力をしている。即ち、常用作業員のうち機械要員を欠員補充の形で昭和四一年から四五年までに二、七二三名定員内職員に繰り入れたり、新職種を設定して常用化を図つたりし、旭川営林局管内だけで昭和四一年四月から同四六年三月まで約一四五〇名(全体で九九一〇名)を常用化し、定期作業員についてもその雇用期間の延長を最大限に図つた。また、祝日を有給化し(昭和四六年一二月までに常用作業員は全休日、定期作業員は合計五日を)、生理休暇、忌引にも手当てをし、雇用基準の緩和による雇用安定化や諸手当もできる限り改善した。

(二) 本件争議行為

全林野は、昭和四六年春闘方針などに基づき大幅賃金引き上げなどの諸要求を貫徹することを目的として、昭和四六年四月二三日、同月三〇日、および同年五月二〇日の三回にわたり、勤務時間内の職場集会を手段とする全国的規模の統一ストライキを行つた。

全林野旭川地方本部(以下旭川地本という。)傘下にあつては、右ストライキを行うにあたり、当局の事前の警告を無視して旭川地本の直接指導のもとに次のようなストライキを行つた。

即ち、(1)、昭和四六年四月二三日(金曜日)

傘下の五営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、美瑛営林署においては、旭川地本美瑛営林署分会所属の五〇名が、北海道上川郡美瑛町の労働会館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告美瑛営林署長の再三の職務復帰の命令を無視して四時間にわたりその職務を放棄した。

(2) 同月三〇日(金曜日)

傘下の二営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、名寄営林署においては、旭川地本名寄営林署分会所属の三四名が、北海道中川郡中川町の末広旅館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告名寄営林署長の再三の職務復帰命令を無視して、四時間にわたりその職務を放棄した。

(3)同年五月二〇日(木曜日)

傘下の二営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、羽幌営林署においては、旭川地本羽幌営林署分会所属の四八名が、北海道苫前郡羽幌町の石崎旅館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告羽幌営林署長の再三の職務復帰命令を無視しておよそ一時間四五分から二時間四〇分の職務放棄をした。

(三) 本件争議行為の影響

国有林野事業の業務は国民全体の利益と密接な関連を有し、その業務の停廃は国民の共同利益を侵害することは後記の事業内容から見ても明らかである。国有林野に対し人為的働きかけを最も効率良く行うため、経営に関する諸計画は長期的かつ総合的に末端の事業遂行の最少単位の業務まで盛りこんで作成されるから、その一部の不実施はひいては全体に波及し、その事業遂行に重大な支障を与える可能性を有する。例えば、伐採事業の遅れ、収穫、販売は勿論跡地の造林、育苗まで遅滞して正常な業務が阻害されるなどである。しかも、国有林野事業は、季節的、自然的制約が強く、一時的または短期の業務の停廃も有機的関連性を持つて連鎖的に他に影響し、回復困難な損害をもたらすものである。

2  (原告らに対する処分の理由)

原告らは、それぞれ別紙処分等一覧表処分の事由欄、職場集会実施場所欄、職場集会および職場に復帰するまでの職務放棄時間欄記載のとおり、前記1、(二)記載の本件争議行為に参加したところ、右の行為はそれぞれ前記一覧表の違反事項欄記載の法令に違反したことになるので、被告らは、同適用条項欄記載の法令により原告ら主張のとおりの懲戒処分をした。〈後略〉

理由

一原告らの主張1、2のうち、目録原告番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇七番、一一九番の原告らが、全林野の組合員であることは弁論の全趣旨により認めることができ、その余の事実は全て当事者間に争いがない。

二そこで、右懲戒処分が適法になされた旨主張する被告らの主張に従つて順次判断する。

1  被告らの主張1、(一)、(1)(作業員の雇用制度)のうち、国有林野事業に従事する作業員の制度上の地位が被告らの主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、国有林野事業における作業員の雇用制度は、昭和二六年の営林局署労務者処遇規程等により実施されていたが、公労法の適用を受けるようになつて昭和二九年三月一七日、林野庁と全林野との間に締結された「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」によりほぼ現在の制度となり、同四四年四月一四日、同一当事者間に締結された「定員外職員の雇用区分、雇用基準、および試用期間に関する覚書」によつて雇用基準が若干緩和されるなど一部改正されたもので常勤、常用、定期、および臨時の各作業員からなり、法制上は、定員法、行政機関定員令に定められた職員以外の非常勤国家公務員として、人事院規則八の一四に基づいて採用されている者であること、その雇用基準は、作業に対する適格性を有することは無論として、常用作業員は一二箇月を越えて継続して勤務する必要とその見込みのあることなどを、定期作業員は毎年同一時季に六箇月以上継続して勤務することを例としその見込のあることなどを要件としていずれも二ケ月の期限付で採用されるが、常用作業員は更新により実質的に通年雇用であり、定期作業員は六箇月以上一年未満の有期雇用で失職中は失業保険金の支給を受けて生計を維持して翌年度の再雇用を待つという勤務形態を採つていること、作業員の数は、昭和四六年四月一日現在で、常勤作業員一五三名、常用作業員一万六三三六名、定期作業員一万九六一二名など(なお、林野庁の定員法に定められた職員数は前同日現在で三万九四八三名)であつて、その大部分は、生産手A、B、造林手、機械造林手などとして事業部門で勤務していること、および、国有林野事業における総雇用量は漸減しているものの、その中で常用、定期作業員だけがほぼ現状を維持し、臨時作業員が山村の過疎化もあつて激減して作業員の固定化が見られ、例えば、常用作業員の勤務年数は、昭和四五年一〇月現在で平均7.3年であり、その内訳は五年未満八八〇三名、五年以上二〇年以下六二一四名、二一年以上一〇六三名であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

2  次に被告らの主張1、(一)、(2)(作業員の処遇)について判断する。

同1、(一)、(2)のうち、作業員の給与が日給制であることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、昭和四六年の本件争議行為当時における作業員の処遇の実態の概要は以下のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

即ち、作業員の勤務条件については林野庁と全林野の間で締結された労働協約や国有林野事業作業員就業規則等で詳細に定められているところ、作業員の雇用形態については先に認定したとおりであること、賃金については、給特法の適用を受けて林野庁と全林野の間に国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約が結ばれており、基本賃金につき日給制がとられ、賃金支払形態として定額日給制と出来高給制が採用され、定額日給制については職種毎に格付賃金が定まつており、出来高給制については作業別の単位作業量当りの賃金にその者の出来高を乗じて得た額を支給する方式によつているが、その金額は昭和四五年当時で単純平均すると定員内職員の賃金の75.8%(昭和四四年統計で常用作業員は八〇%、定期作業員六八%となる。)、民間企業(全産業平均五〇〇人規模)の全従業員の賃金の78.3%(他産業の五〜二九人の規模と同程度)であり、定員内職員との較差は定期昇給がない関係から年令が高くなるにつれて著しくなること、諸手当(扶養家族手当、山泊手当、役付手当、特殊手当、休業手当、期末手当、寒冷地手当)はその支給を受けることになつているが、定員内職員と比較して、例えば、寒冷地手当は常用作業員で約四〇%、定期作業員で約一二〜三%の額、石炭手当は同常用作業員で約六〇%、定期作業員で約五〇%の額であること、勤務時間については一日八時間(週四八時間、定員内職員は四四時間)で、休日については原則として毎週日曜日を週休日とし、他に月に作業休日が二日あること、有給休暇については、定員内職員の年二〇日に対し、常用作業員には勤続年数に応じ、一二日ないし二〇日(勤続年数五年末満のものは一二日、一〇年未満のものは一七日、一〇年を超えるものは二〇日)、定期作業員には九日の各有給休暇(格付賃金が支給される)が与えられている他有給の特別休暇等も定められているが、なお国民の祝日の措置、生理休暇、忌引休暇、私傷病天災伝染病による隔離の場合の手当などについては定員内職員との間に較差のあること、退職手当については常用作業員には国家公務員退職手当法四条の二〇ないし二五年の長期勤続の場合の適用が受けられず、また、定期作業員には共済組合に加入できないこと、その他作業員は宿舎や制服、作業服の貸与について定員内職員との間に差異があること(法律上の制約から作業員は公務員宿舎には入居できないが、事業宿舎には入居でき、約一万六〇〇〇戸のうち約三〇〇〇戸に作業員が入居している。)、定期作業員の制度は国有林野事業の業務内容の季節労務的性格と地方の余剰労働力の吸収という面に支えられていたのであるが、過疎化により作業員が固定し、従前のような意味を失い、定期作業員の就職と失職の反覆という身分の不安定さが当面の問題となつていたことなどの事実が認められる。

3  そこで、作業員制度をめぐつての全林野と林野庁との交渉経過について判断する。

同1、(一)、(3)(雇用安定処遇改善のための「二確認」について)のうち、林野庁と全林野との間に被告ら主張のとおりの二確認がなされたこと、同1、(一)、(4)(二確認の具体化のための労使交渉について)のうち、全林野が昭和四二年一〇月二四日、差別撤廃等を要求したこと、同四三年一二月二七日、いわゆる「No.3確認」をしたこと、林野庁から同四五年七月いわゆる七月提案のあつたことおよび同四六年四月一三日被告ら主張のとおりの政府見解が発表されたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、前記作業員制度の改善をめぐつて次のような経緯のあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

即ち、昭和二二年の林政統一以後、同二五年の営林局署労務者取扱規定、同二六年、営林局署労務者処遇規程にあつた常勤労務者(人事院事務総長通牒に基づく制度でのち、昭和二九年覚書で常勤作業員と改称)約一万名については、昭和三三年から三七年にかけほぼ定員化が図られたが、他の常用、定期作業員については、昭和三六年二月の常勤化防止に関する閣議決定もあつて、同三七年までに常用作業員のうち約一万名の定員化がなされたのみで他は定員法の枠外の非常勤国家公務員として残されたこと、全林野は、昭和二八年結成以来、作業員の定員化雇用制度の抜本的改革を強く要求して昭和三七・八年には組合員の動員行動(上京のうえ各省庁へ陳情することなど)をし、同三八年一〇月には差別撤廃を掲げて二九分のストをするなどの手段をもつて林野庁との団体交渉などを通じてその実現を政府、林野庁に反覆して要求し、林野庁と常勤化問題をめぐつて団体交渉を継続する過程で両者間に昭和四一年三月二五日には直営直用を拡大して雇用安定を図ると共に事業の通年化も進める旨の、同年六月三〇日には右の再確認と林業基本法一九条の趣旨にそつて雇用制度の抜本的改革を図る旨のいわゆる二確認が作業員制度改革の基本姿勢として打出されたこと、その後全林野は右二確認の早期実現を目ざして、昭和四二年一〇月二四日には差別を撤廃し臨時雇用制度を抜本的に改善する要求ならびに第一線現場の環境改善に関する要求書を林野庁に提出する等して林野庁と交渉を重ね、林野庁も全林野に対し再三にわたり右二確認の具体化に努力することを約し(同年一二月二三日の右二確認の立場を再確認すると共に一部非常勤職員の定員化を考慮する旨のいわゆるNo.1確認・同四三年一二月二七日の二確認の実現のために林野庁が関係省庁と折衝し、同四四年一月までに具体案を示す旨のいわゆるNo.3確認・同四四年三月二九日の常勤化については関係省庁と折衝中だが昭和四四年からの五箇年計画で冬山作業のできる場所の定期作業員を常用作業員にするよう努力する旨のいわゆるNo.4確認・同四四年末の常勤化のための改革を同四五年度に実施する方針の明示等)、同四五年度に実施すべく関係省庁と折衝したところ思うように調整できなかつたが、同四六年実施を目途にその調整ができることを前提として昭和四五年七月全林野に対し事務段階の素案であるいわゆる「七月提案」(作業員を基幹、臨時の各作業員に分け、現在の作業員から資格要件を定めて選考すること、処遇は基幹作業員を常勤国家公務員とし、二箇月任期、日給制とすることを内容とするもの)を示したこと、これに対し全林野が反対の意向を表明したけれども林野庁は全林野に対し同四五年一二月一四日に、昭和四六年二月までに常勤性付与について関係省庁との折衝を終えて当局案を示し同年度実施を図ることを確認し(いわゆるNo.5確認)、右提案の線に沿つて昭和四六年度に実施すべく関係省庁との折衝に入つたが他省庁の類似職員との問題等があつてそれがうまく行かないうちに昭和四六年三月二三日、衆議院内閣委員会、同農林水産委員会でこの問題が取り上げられ、同月二五日に同農林水産委員会において国有林野事業に従事する作業員制度の改革の促進を内容とする林業振興に関する決議がなされ、さらに同年四月一三日、同委員会において林野庁長官から「国有林野事業の基幹的な作業員は、その雇用及び勤務の態様からすれば長期の継続的勤務となつていること等常勤職員に類似した面があるものと思量されます。しかしながらこれらの基幹的な作業員を制度的に常勤の職員とすることについては、国家公務員の体系にかかわるなかなか困難な問題でもあるので慎重に検討してまいりたいと存じます。」という政府見解が表明されたこと、その後も全林野は林野庁にその具体化提案をさらに求めたが、林野庁は右のとおり問題が複雑化したため政府見解に沿つて慎重に検討するというのみで具体的方策については明らかにしないまま経過していたこと、その間全林野は作業員の雇用制度の改革および作業員の処遇改善を目的として四四年一二月同四五年三月同年一二月にそれぞれストライキを構えて林野庁と団体交渉を重ね(ストライキはいずれも回避された。)、さらに昭和四六年三月一、二日の全林野第五〇回中央委員会でも常勤制確立などを目指して三月二六日にストライキを計画して団体交渉に臨んだところ、前記のとおり、同月二三日に作業員の常勤化問題が国会で取りあげられ、同年四月中旬にこの問題についての政府の統一見解が出されることになつたので、その決行を見合わせたが、その後も期待するような具体的な回答が得られず、同月二三日のストライキ(本件争議行為)をするに至つたこと、また林野庁と全林野との間で交渉した結果作業員の処遇改善面において昭和四〇年に雑用車運転手二九七名が、同四二年から四六年にかけての機械要員二七二三名がそれぞれ定員化されるともに一部職種(機械要員、工作工、厚生職群)の定員化への検討(一部実施)がなされ、同三六年から四六年にかけて有給休暇の日数の増加や祝祭日の一部有給化、年末年始特別休暇の有給化などの点について改善が図られ、同三九年に私傷病手当を新設し、同四三年に退職手当の改善を確認し、同四四年一一月に寒冷地手当の制度化などの処遇改善が行なわれ、前記認定の本件争議行為当時の水準に達していたこと、なお、作業員の常勤化問題をめぐる国会内の動きとしては、前記のほか昭和三七年三月八日、衆議院農林水産委員会で森林法の一部を改正する法律案を議決した際、国有林野事業の運営に当つては直営生産を堅持し、従業員の身分の安定と労働条件の改善を望む旨の付帯決議が付され、同三九年七月九日成立した林業基本法一九条にもその趣旨が謳われ、同四一年六月には衆参両院社会労働委員会で国有林野の経営に関する件として国有林野事業に従事する労働者の雇用安定問題等につき質疑が行なわれ、同四五年四月一三日には衆議院社会労働委員会に野党提出の「国有林労働者の雇用の安定に関する法律案」が付託されたことが、それぞれ認められる。

4  次に昭和四六年春闘における賃金引き上げをめぐる全林野と林野庁との交渉経過については、〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

即ち、全林野は昭和四六年二月一日、中央執行委員会において七一年(昭和四六年)春闘方針として一万五〇〇〇円以上の賃上げ、日給制職員の差別賃金解消を要求すること、同年四月以後賃上げ交渉を本格化し、四月下旬から五月上旬に山場を作ることを打出し、同年三月一、二日、同第五〇回中央委員会において月給制一万五三〇〇円、日給制一三〇〇円の各賃上げ要求と四月下旬と五月上旬の山場、五月中旬の山場で一日から半日のストライキを行うことを決めると共に、同年三月四日には、全林野の加盟する総評大会でも誰でも一万円の賃上げを目指し、三月二六日にストライキ、四月二〇日以後に官民統一ストライキを行うことを決定したこと、同年三月八日、全林野は林野庁と第一回目の団体交渉を行つて当時月給制月額平均六万四〇〇〇円、日給制日額平均二三〇〇円であつた賃金について、月給制月額一万五三〇〇円、日給制日額一三〇〇円の賃上げを要求したのに対し、林野庁は他の公共企業体の交渉を見守ることもあつて有額回答をせず、次いで同年四月三日の第三回団体交渉では賃上げの方向だけを示し、同月二七日の第七回団体交渉で初めて有額回答をし月給制月額平均四八九六円、日給制日額平均二一三円を示したが、全林野はそれを不満として即日、三〇日にストライキを行う旨の指令を全国の拠点に発し、後記のとおりそれを実施したこと、その後も右団体交渉は続けられたが五月一三日の第一二回交渉において両者の合意ができずに決裂し、翌一四日、全林野は、公労委に調停申請を行い、労使交渉は調停に移行し、公労委の調停に付されたこと、公労委は同月二二日に調停案(月給制月額平均七四一三円、日給制日額平均三三〇円)を提示したところ、これについて双方の合意が得られず、同月二五日仲裁手続に移行し、六月一日調停案と同額の仲裁裁定により妥結したのであるが、この間に全林野は後記のとおり五月二〇日にストライキを行つたこと、および右賃上げをめぐる事情としては、物価が前年に較べ約5.6パーセント上昇しており昭和四六年春闘における民間賃金は単純平均で一万円弱の賃上げが行なわれていること、国有林野事業は昭和二二年からほぼ黒字基調であつたが、同四五年には一二一億三〇〇〇万円の大幅な赤字を出していること、および国有林野事業に従事する作業員の賃金は、前記認定どおり定員内職員、民間企業(五〇〇人規模)の従業員と比べると較差のあること(林野庁は全林野に対し昭和四二年春闘において日給制賃金について他産業五〇〇人以上規模の賃金水準を努力目標として改善する旨確認している。)などが認められる。

5  被告らの主張1、(二)、(本件争議行為)のとおり、原告らが全国的規模のストライキに参加したこと、および被告らが原告らに対し同2(原告らに対する処分の理由)記載のとおりの理由で本件懲戒処分をしたことはそれぞれ当事者間に争いがない。

三そこで、右懲戒処分の根拠となつている公労法一七条一項が憲法二八条に違反せず有効であるかについて判断する。

憲法二八条は、勤労者に対しいわゆる労働基本権(団結権、団体交渉権、争議権)を保障している。これは憲法二五条に定めるいわゆる生存権を基本理念として、動労者に人たるに値する生存権を保障するため、憲法二七条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と共に経済的劣位に立つ勤労者に実質的な自由と平等とを確保するための手段として保障しているものである。そしてこの権利は勤労者として自己の労働を提供しその対価を得て生計を維持しているすべての者に対して保障されているものであるから公共企業体に勤務する職員および公務員も原則として保障されているものであり「公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない。」との憲法一五条を根拠としてそれを全て否定するようなことは許されない。

もつとも、労働基本権と雖も、何らの制約も許さない絶対的なものではないのであつて、国民全体の共同利益の擁護という見地からの制約を当然に受けるものであつて、このことは憲法一三条の規定の趣旨から明らかである。そこで具体的にどのような場合にどの程度の制約が憲法上許されるかについて検討する。

労働基本権が勤労者の生存権に直結し、これを保障するための重要な手段であることは右に述べたとおりであるから国民全体の共同利益の見地からこれを制約するにしてもその制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめるべきものである。そしてこれを前提にすると労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の停廃が国民生活全体の利益に反し、国民生活に重大な支障をもたらす虞れのあるものについて、それを避けるために必要やむをえない場合に考慮さるべきものであり、また労働基本権の制限違反に伴う効果、即ち、違反者に対して課せられる不利益については必要な限度を越えないよう十分に配慮がなされねばならない。そして職務または業務の性質上からして労働基本権を制限することがやむをえない場合にはこれに見合う代償措置が講ぜられなければならないものと考える。被告らは公務員(本件においては現業国家公務員)の労働基本権は経済的自由権と目すべきものでおると主張するが、その見解は勤労者の生存権を保障する手段として憲法の認める基本的人権としての労働基本権に対する正当な理解とはいえない。また労働基本権は生存権保障のための手段的権利にすぎず、それ自体が目的でないから勤労者の生存権確保のために他に代るべき手段があれば合理的な必要性のある限り許されると主張するが、他に代るべき手段即ち代償措置はあくまでも代償措置であつて労働基本権そのものとは機能的に異るものであるから労働基本権の制限は合理的な必要最少限度のものに止めるべきである。

ところで公労法の適用があるいわゆる三公社五現業の業務は、その性質上一般的に公共性を有することは否定できないが、その業務の内容は独占性、公共性の強いものもあればそれ程ではないものもあり、それに争議行為といつてもその種類、態様、規模は様々で争議行為の国民生活への影響の程度もそれぞれ異なるものである。また、争議権制限の代償措置として存在する公労委も、賃金をめぐる紛争には有効に作用しえても、その他の勤務条件をめぐる紛争の解決について有効に機能し得るかどうかは疑問がないわけではない。したがつて、公労法一七条一項が、かような公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱や争議行為による国民生活への影響の度合代償措置の機能し得る限界を考慮せず公共企業体等の職員らの争議行為を全面一率に禁止する趣旨とすれば、争議権が労働組合の団体交渉における労使の対等関係を支える不可欠の基本権である以上憲法二八条違反の疑いを免れない。

しかしながら法律による禁止制限が文理上その内容において広範に過ぎ、憲法の保障する基本的人権を侵害するような場合、その法律を全面的に違憲無効としなければならないわけではなく主要な部分が合憲として是認し得るものであればその法律の規定を可及的に憲法の精神に則してこれと調和するようにしてできるかぎり合憲的に解釈する方が、若干の不明確さはあるにしても(但しこの点についても解釈でより客観化し得る。)その規定を全面的に違憲無効として排斥するより国会の立法権を尊重するという憲法の趣旨からすると合理的なものというべきである。そうすると公労法一七条一項の規定を労働基本権を保障した憲法二八条の規定の趣旨と調和するように解釈するならば、右公労法一七条一項の趣旨は、公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関関係的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして国民生活全体の利益を害し、国民生活への重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限りこれを禁止したものと解するのが相当である。従つてこれに反し公労法一七条一項が全面違憲であると主張する原告らの主張は採用できない。

被告らは、非現業、現業を問わず国家公務員(公社職員を含めて)は特殊性(地位の特殊性、公共性、勤務条件決定過程の特殊性)があるので、争議行為の全面一率に禁止することは合理的な必要性があり、かつ代償措置も準備されているのであるから合憲である旨主張する。しかしながら非現業国家公務員はともかくとしていわゆる三公社五現業の職員については以下国有林野事業に従事する職員を例に述べるとおり制度上非現業国家公務員と異つた取扱いがなされているのであり、これを前記の労働基本権を制限できるかどうかの判断基準に照して検討してみるとその地位の特殊性、勤務条件決定過程の特殊性を考慮してもなお公労法一七条一項の文言どおり争議権を全面一率に禁止するものとすれば憲法二八条違反の疑いを免れないので被告らの右主張に左袒しない。

そこで国有林野事業に従事する職員の国法上の地位および勤務条件決定の過程を概観すると、国有林野事業に従事する職員は現業国家公務員として後記のような公共性ある職務を継続的かつ統一的に遂行して国(国民)に対し不断の役務を提供すべき使命があると共に、その勤務条件の決定については公労法八条により多くの部分が団体交渉による労働協約に委ねられてはいるものの他の法律(国家務公務員退職手当法、国家公務員災害補償法、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法、公労法一六条など)や予算による制約があつて団体交渉の相手方である林野庁のみでは処理しきれない面も多く、また制度上は市場の抑制力も働かないという特殊性を有してはいる。しかし、国有林野事業の業務は、非現業国家公務員とは異なりその主要な部分は私企業によつて遂行し得るものであり肉体労働的色彩の濃い職務が多く民間企業にも類似の職務に従事している労働者が多数おり法制上も非現業公務員と比較して勤務条件につき自主的に団体交渉により労働協約を締結できるなど労働基本権の制限の程度も緩和されている。また、代償措置についても人事院の関係する部分は少く、その多くは公労委に委ねられているのであるが、先に述べたとおり賃金紛争については有効に作用し得てもその他の勤務条件例えば本件における作業員制度の改革問題等については十分な機能を持つといい難い。そうすると林野庁も使用者側として団体交渉の場につく以上、交渉事項について誠実に交渉に当つて協定事項を履行すべきであり、協定事項の実現につき法律その他の制約があつて国会の承認を要すような場合にはそれを実現するため国会の承認が得られるよう努力する責務を負つているものというべきである。

以上のような諸点を考慮すると憲法は社会国家の理念を掲げた二〇世紀的憲法として、労働基本権を保障し法制上団体交渉権も認められている現業公務員についてその対等な交渉を保障する争議権を公務員の地位の特殊性、勤務条件決定過程の特殊性を根拠に全面一率に剥奪することは憲法二八条に反し許されないものというべきである。

四そこで国有林野事業に従事する職員および組合の争議行為が公労法一七条一項により禁止されているかどうかを判断する。

〈証拠〉によれば、わが国は森林面積が国土面積の六八%を占め、森林蓄積量は約一九億立方メートルに及ぶ有数の森林国であるところ、国有林野は右森林面積の三一%、森林蓄積量の四六%を占めていること、民有林が昭和四五年現在二五六万有余戸の林業家によつて所有され、うち二二七万有余戸が五ヘクタール未満の林業家であるのに対し、国有林野事業は全国一四営林局三五〇営林署およびその事業所、病院などの付属施設と、定員内職員約三万九〇〇〇名、作業員約三万六〇〇〇名を擁する一大公企業体であつて、林産物の継続的供給という経済的機能はもとより、国土保全、水源涵養、国民の保健休養、貴重な動植物、自然景観等の自然保護など公益的機能の確保を目的として統一的、計画的に管理運営されていること、右経営目的実現のため、経済的機能の面では、昭和四五年度で約二〇〇〇万立方メートルの木材を伐採し、造林事業に二三八億有余円を投じるなどの事業を行い、林産物の継続的供給のため、全国森林計画に則つて樹立される経営基本計画に基づいて造林、育苗、伐採、販売の事業を行つており、公益的機能の面では国有林が多く脊梁山脈部に位置することもあつて、国有林中四四%(三五五万ヘクタール)が保安林に指定されているばかりか保安上必要な民有林の買収も行い、国土保全のため数次にわたる治山五箇年計画に莫大な費用を支出したり、さらには国民の保健休養のため自然休養林、野営場など諸施設をもうけたりしていること、および国有林野所在地の産業振興と地域住民の福祉の向上に資するため国有林の積極的活用を図り、ひいては当該地域の農林業の整備改善に資していることが認められ、〈証拠判断省略〉。

もつとも、〈証拠〉によれば、林産物の国内市場への供給は国有林野事業のみの独占的機能ではなく、同種事業は民間においても広く実施されているし近年は外材の輸入により国産材の総供給量に占める割合は五〇%を切つており、うち国有林の占める割合は14.4%しかなく価格安定機能もややその効力が薄くなつており、国土保全水源涵養などの森林の機能も国有林のみの保有するものではなく民有林を含んだ森林自体の保有する機能であること、また、現在国有林野事業においては立木処分が昭和四五年当時一二三二万立方メートル(製品生産は同七九七万立方メートル)を占め、事業においても造林主作業において下請率は五〇%を製品生産においても二〇%を超えており、公共性の強い治山事業についてもそれに従事する職員は全員の二%であつて事業の八〇%は下請によつていることが認められるが、かえつて、将来にわたつて外材に依存すことはそれが外国の事情、資源の枯渇など不安定な要素を多く内包するため問題があるので、国有林野事業の多大の資本投下による統一的計画的な施業をし、それによる林産物の継続的供給や価格の調整に資する機能が重視されること、また国土を災害と荒廃から護り水源を涵養する保安林や治山事業は、特に国民生活に関連し、その安全を保持するのに重要な事業であり、それは森林の自ら保有する公益的機能を維持補完するに止まらず、人為を加えることによつて高度に発揮する努力が必要であること、右各機能は営利を追求し資本が少く財産保持的色彩の濃い民有林では十分に発揮し難いこと、および、未だ直営直用による施業はかなりの部分を占め、将来の拡大も考えられるし、治山事業についても下請による実施はあつても、その調査、計画、設計の大部分や監督、検査などの管理業務はほとんど国有林野事業に従事する職員が担当していることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、国有林野事業は民有林業に比較して公共性が強いものといえる。

ところで国有林野事業は成育に長期間を要する森林を対象とする特質を有し、かなりの長期的計画に立つて事業を行つているので、業務の一時的停廃による障害は直ちに顕著な形をとつて現われることはないが、造林や育苗作業などには季節的な制約があつて技術の進歩等により若干適期を拡大し得るにしてもその適期は限定されているので一旦自然が破壊されるとその回復には長期間を要し、業務の停廃の規模によつては回復不可能となる場合のあることも予想される。そうであれば国有林野事業の職員および組合の争議行為についても、その公共性に鑑み、争議行為の規模、態様如何によつては国民生活に重大な影響を及ぼす虞れがあり、争議行為の制限に対する一応の代償措置が講じられているのであるからそのような争議行為は公労法一七条一項により禁止していると解すべきである。

五そこで、原告らの本件争議行為が公労法一七条一項に禁止する争議行為に該当するかについて判断する。

前顕〈証拠〉および前記一、二、5記載の当事者間に争いのない事実によれば、本件各ストライキは全林野の指令のもとに予め示された方針に基づいて全国の拠点となつた分会で統一的に行なわれたこと、昭和四六年四月二三日のストライキは常勤化のために定員外職員である作業員によつて行なわれ、同年四月三〇日、五月二〇日の各ストライキは賃金引上げのために定員内、定員外職員によつて行なわれたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで本件ストライキは、その規模や計画性において見るべきものがあるが、本件各争議行為はストライキという単なる労務の不提供であり比較的時間も短かく、国民生活へ及ぼした影響については国有林野事業の長期的施業であることもあるが本件証拠上明らかでないこと、本件懲戒処分の対象者がストライキに参加した第一線現場で働く末端の作業員まで多く含んでいること、および前記二1ないし5で認定した国有林野事業に従事する職員殊に作業員に対する処遇ならびに林野庁と全林野との間のいわゆる二確認、賃金をめぐる交渉経過などを考えあわせると、本件ストライキは公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当するとは言い難い。

六そうであれば、被告らのなした原告らに対する懲戒処分はその原因を欠く違法なものというべくその余の点につき判断するまでもなく原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(長谷喜仁 竹江禎子 有吉一郎)

処分等一覧表

訴状目録番号

原告名

処分当時の役職

処分

減給については末尾註記のとおり

処分の事由

職場集会

実施場所

職場集会および職場に復帰するまでの職務放き時間

違反事項

適用条項

本多政二

分会

組合員

減給

三月間

昭和四六年四月二三日に違法な識務放棄に参加した。

上川郡美瑛町

労働会館

四時間

公労法

一七条一項

国公法

九六条一項、

九八条一項、

九九条、

一〇一条一項

国公法八二条各号

小沼永利

および

3から50

まで

減給

一月間

51

岡村武

および52

から82まで

分会

委員長

昭和四六年四月三〇日に違法な職務放棄に参加した

中川郡中川町

字佐久市街

末広旅館

83

宇恵野安悦

分会

委員長

戒告

昭和四六年五月二〇日に違法な職務放棄に参加した。

苫前郡

羽幌町

石崎旅館

一時間四五分

84

平尾淳夫

分会

組合員

二時間二二分

85

工藤寿

86

大竹明

二時間一九分

87

佐々木政蔵

二時間二二分

88

三原芳雄

二時間四〇分

89

谷行雄

二時間二九分

90

阪本義人

二時間二二分

91

千田常正

二時間二五分

92

宮川英民

二時間二二分

93

横内茂

二時間二七分

94

櫛引福利

95

佐賀浩

二時間二二分

96

立崎強太

二時間四〇分

97

熊谷正

二時間二二分

98

折舘一男

二時間四〇分

99

鈴木貞夫

二時間一九分

100

神成正雄

101

藤田誠

102

乙坂良春

103

鎌田武夫

104

川村武志

二時間二五分

105

逢坂慶蔵

106

八谷紀雄

107

福士銀太郎

108

畠山勝

二時間二二分

109

沢田忠一

110

柳田忠雄

111

熊林仁実

二時間二七分

112

根井兼政

113

星弘道

114

村上富蔵

115

佐藤隆光

116

田中義照

二時間二九分

117

竹内敏明

118

家中義晴

119

工藤貞一

120

大屋光雄

二時間四〇分

121

堤博

122

大場正

123

寺本信一

124

堤昭

125

上田繁

126

谷口慶吉

127

堤幸太郎

128

本間繁雄

129

竹原信一

二時間二九分

130

片岡満

地本

委員長

専従

停職

三月間

昭和四六年四月二三日、

四月三〇日、五月二〇日の違法な

職務放棄を実施せしめた。

公労法

一七条一項

国公法

九九条

国公法八二条一号

三号

131

中川晋市

地本

副委員長

専従

昭和四六年四月二三日、

四月三〇日、五月二〇日の

違法な職務放棄を実施せしめた。

さらに同年四月二三日一ノ橋営林署管内において、同月三〇日名寄営林署管内において、同年五月二〇日士別営林署管内においてそれぞれ行なわれた違法な職務放棄を自ら指導した。

四月二三日

一ノ橋

営林署管内

下川町

一ノ橋旅館

四月三〇日

名寄

営林署管内

中川町字佐久

末広旅館

五月二〇日

士別

営林署管内士別市

旭旅館

132

矢部哲夫

地本

書記長

専従

昭和四六年四月二三日、

四月三〇日、五月二〇日の違法な職務放棄を実施せしめた。

さらに同年四月二三日達布営林署管内において、四月三〇日金山営林署管内において、同年五月二〇日羽幌営林署管内においてそれぞれ行なわれた違法な職務放棄を自ら指導した。

四月二三日

達布

営林署管内

小平町

達布福祉会館

四月三〇日

金山

営林署管内

占冠村字中央

大阪屋

五月二〇日

羽幌

営林署管内

羽幌町

石崎旅館

133

谷口博康

地本

執行委員

専従

停職

一月間

昭和四六年四月二三日、四月三〇日、五月二〇日の違法な職務放棄を実施せしめた。

さらに同年四月二三日深川営林署管内において同月三〇日名寄営林署管内において、同年五月二〇日士別営林署管内においてそれぞれ行なわれた職務放棄を自ら指導した。

四月二三日

深川

営林署管内

深川市

労働福祉会館

四月三〇日

名寄

営林署管内

中川町字佐久

末広旅館

五月二〇日

士別

営林署管内

士別市

旭旅館

134

佐藤隆一

停職

二〇日間

昭和四六年四月二三日、四月三〇日、五月二〇日の違法な職務放棄を実施せしめた。

さらに同年四月二三日美瑛営林署管内において行なわれた違法な職務放棄を自ら指導した。

四月二三

日美瑛営林署管内美瑛町

労働会館

135

佐藤義郎

停職

一月間

昭和四六年四月二三日、四月三〇日、五月二〇日の違法な職務放棄を実施せしめた。

さらに同年四月二三日浜頓別営林署管内において、同月三〇日金山営林署管内において、また同年五月二〇日羽幌営林署管内においてそれぞれ行なわれた違法な職務放棄を自ら指導した。

四月二三日

浜頓別営林署管内浜頓別町

浜頓別町

福祉センター

四月三〇日

金山営林署管内占冠村字中央

大阪屋

五月二〇日

羽幌営林署管内羽幌町

石崎旅館

136

川口光明

地本

執行委員

停職

一〇日間

昭和四六年四月二三日、四月三〇日、五月二〇日の違法な職務放棄を実施せしめた。

公労法

一七条一項

国公法

九六条一項、

九八条一項、九九条、

一〇一条一項

137

佐光進

138

小川孝一

139

星弘

140

原田光雄

141

白馬武

(註記 処分当日における主たる職種の格付賃金に標準作業日数を乗じた額の一〇分の一)

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